大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和55年(行ウ)7号 判決 1981年3月31日

原告 城山工業株式会社

被告 神奈川県地方労働委員会

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、神労委昭和五四年(不)第一三号不当労働行為事件について、昭和五五年四月一五日付で原告に対してなした不当労働行為救済命令は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の申立て

主文一項と同じ。

2  本案についての申立て

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告

1  請求原因

(一) 被告は、申立人訴外城山工業労働組合(以下「訴外組合」という。)、被申立人原告間の神労委昭和五四年(不)第一三号不当労働行為事件について、昭和五五年四月一五日、原告に対し、救済命令(その主文は別紙のとおり。以下「本件命令」という。)を発し、同日、その命令書を原告に交付した。

(二) 本件命令は、事実を誤認した違法な命令であるから、取消を免れない。

2  本案前の主張に対する認否、反論

(一) 訴外組合が、本件命令後に、組合員全員が脱退して消滅したことは認める。

(二) しかしながら、本件命令の存在自体が原告の名誉を毀損し、原告に損害を与えていることになるから、本件命令を取消す訴えの利益が存在する。

二  被告

1  本案前の主張

(一) 訴外組合は、本件命令後に、組合員全員が脱退して消滅した。

(二) したがつて、本件命令の存続によつて、原告に何らの義務や負担を課することにはならないから、本件命令を取消す訴えの利益はない。よつて、本件訴えは却下されるべきである。

2  請求原因に対する答弁

請求原因事実(一)は認める。同(二)は争う。

理由

一  被告の本案前の主張について

1  訴外組合が本件命令後に組合員全員の脱退によつて消滅したことは当事者間に争いがない。

2  ところで、本件命令は、原告に対し、訴外組合の運営に支配介入してはならないこと(主文第一項)及び訴外組合に陳謝誓約すること(同第二項)をそれぞれ命じたものであるところ、原告に命ぜられた行為の相手方である訴外組合が消滅したというのであるから、現在においては、本件命令を遵守するに由なく、また本件命令に違反する事態の発生することはありえないこととなり、従つて、本件命令が確定し存続するとしても、原告にとつて何らの義務あるいは負担を伴うものではないので、本件命令を取消す必要性は存しなくなつたものといわざるをえない。

3  原告は、本件命令の存在自体が原告の名誉を毀損し損害を与えるものである、と主張するが、かかる事情は単なる事実上の利益にすぎず、これをもつて本件命令の取消を求めうる法律上の利益とみることはできず、その他、本件全証拠によるも、本件命令の取消を求める法律上の利益を認めなければならないような事情を肯認するに足りない。

二  以上によれば、原告の本件訴えは、訴えの利益を欠くものとして不適法であるから、その余の点につき判断するまでもなく、却下を免れない。

よつて、本件訴えを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三井哲夫 吉崎直弥 嘉村孝)

(別紙)

主文

1 被申立人会社は、自ら、またはその職制を通じて申立人組合またはその組合幹部を誹謗中傷したり、あるいは申立人組合に対し不当に会議室の利用を拒否したり、もしくは組合員に脱退を勧奨するなどして申立人組合の運営に支配介入してはならない。

2 被申立人会社は、本命令交付後一週間以内に下記文言を縦一メートル、横二メートルの白紙に墨書し、被申立人会社の本社正面入口の見やすい場所に一週間掲示しなければならない。

当社は、貴組合や貴組合幹部を誹謗中傷し、貴組合員の自宅を訪問して組合脱退を勧め、あるいは貴組合からの施設使用の申入れを不当に拒否するなど、貴組合の活動を妨害しました。これらの行為については、このたび神奈川地方労働委員会により労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であると認定されました。ここに深く陳謝するとともに、今後かかる行為を行わないことを誓約いたします。

昭和  年  月  日

城山工業労働組合

執行委員長 開原正広殿

城山工業株式会社

代表取締役社長 山崎隆一

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例